無添加ハムなら安全、とは言い切れません。「大切な家族には、少しでも体にやさしいものを選びたい」——その思いから「無添加」「無塩せき」の表示を重視する方は多いはずです。家族の健康を願う気持ちは、とても自然なものだと思います。
ただ、食品の安全性は添加物の有無だけでは決まりません。使用目的や使用量、加熱、塩分、温度、さらには衛生管理や包装、保存方法まで関わってきます。製品がどのように作られ、どう管理されているかを含めて考える必要があります。
この記事は、亜硝酸塩がどこから来たのかという話から始めます。そのうえで公的機関や査読論文の評価と、エーデルワイスファーム自身の試作経験を分けて示し、なぜ現在も必要最小限だけ使用しているのかをお伝えします。
無添加ハムは安全なのか|この記事の要点
SUMMARY
亜硝酸塩は、岩塩の中にあった成分から始まった
亜硝酸塩は、あとから食品に足された異物ではありません。ヨーロッパでは古くから、硝酸塩を含む岩塩が食肉の塩せきに使われてきました。当時の作り手は化学的な仕組みを知りませんでしたが、使う塩によって肉の色や風味、日持ちが変わることは経験として知られていたのです。
硝酸塩や亜硝酸塩という物質そのものは自然界にも存在し、土壌や水、植物にも含まれています。食肉科学の分野でも、塩せきの歴史は硝酸塩を含む塩の利用から始まったものとして整理されています。
岩塩の硝酸塩は、肉の中で何に変わるのか
岩塩の中には硝酸塩が含まれることがあります。それが微生物の働きなどによって亜硝酸塩へ変化し、この反応が食肉の色や風味をつくります。硝石や岩塩に含まれる硝酸塩の働きなしには、ハムやベーコンという食品そのものが成立しませんでした。
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いつから「亜硝酸塩」として使われるようになったのか
発色と保存性の正体が硝酸塩ではなく亜硝酸塩であることが科学的に解明されたのは、19世紀末から20世紀初頭にかけてです。米国では1925年に、米国農務省(USDA)が食肉製品への硝酸塩・亜硝酸塩の使用に関する最初の公式な規制を定めました。精製された亜硝酸塩を食肉加工に直接使う仕組みは、ここから制度として整えられていきます。
現在は、成分量が一定しない天然の岩塩だけに頼りません。品質と使用量を管理しやすい亜硝酸塩を、法令に基づく食品添加物として使用しています。管理できる形に変えたことが、精製の目的でした。
ここで大切なのは、「自然界にも存在するから安全」と結論づけないことです。亜硝酸塩を安全に使う根拠は、天然由来かどうかではありません。使用目的が明確であり、量が管理されていることにあります。
RELATED
そもそもベーコンとはどんな食品か、原料と製法の基本は「ベーコンとは?原料・製法・ハムとの違いを解説」でまとめています。
亜硝酸塩が担っている4つの役割
亜硝酸塩は、肉を赤くするためだけの添加物ではありません。塩せき肉特有の風味を生み、脂質の酸化を抑え、ボツリヌス菌などの増殖も抑制します。ハムやベーコンの品質と安全性を、同時に支えている技術です。
食品表示上、この成分は「発色剤(亜硝酸ナトリウム)」と表示されます。そのため「見た目を赤くするだけの添加物」と受け取られることがありますが、食肉加工における役割は主に次の4つです。
675年(天武天皇4年)に出された詔(みことのり)——天皇が出す命令のことです——によって、牛・馬・犬・猿・鶏の肉を食べることが禁じられました。すべての肉が禁じられたわけではありません。猪と鹿は対象外で、その後も狩猟され食べられています。江戸時代には「薬食い」という名目で獣肉が食べられ、彦根藩は牛肉の味噌漬けを養生薬として将軍家へ献上していました。長崎の出島では、オランダ人とともに牛肉を口にする機会もありました。
誤解されやすいのですが、明治政府が国民一般に向けて肉食を解禁したという布告は確認できません。明治5年(1872年)の太政官布告(だじょうかんふこく)第133号——明治初期の政府が出した法令です——は、僧侶の肉食・妻帯・蓄髪を許可したもので、国民一般に向けたものではありません。実際に起きたのは、明治4年12月ごろに宮中で肉食の慣行が改まり、そこから牛鍋や洋食が社会へ広まっていったという緩やかな転換でした。
明治7年(1874年)には、イギリスから来日したウィリアム・カーティスが、鎌倉郡下柏尾村(現在の横浜市戸塚区)でハムの製造を始めたとされています。ヨーロッパが数世紀かけて積み上げてきた塩せきの技術を、日本はおよそ150年で受け取ったことになります。用語に馴染みがないのは、当然のことです。知らないことと、危ないことは違います。
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生肉を加熱した香りと、ハムの香りは同じなのか
豚肉に塩をして加熱しただけの料理と、適切に塩せきして作ったハムとでは、香りも味わいも違います。塩せき肉に生まれる独特の香りは、一般にキュアードフレーバーと呼ばれます。亜硝酸塩が肉の色素や脂質などと反応し、「ハムらしい」と感じる色や風味の形成に関わっているためです。
肉の脂質は酸化することがあり、加熱後に時間が経った肉のような酸化臭が生じます。亜硝酸塩は、この脂質の酸化を抑える働きにも関係しています。匂いを香料で覆い隠すものではなく、ハムやベーコン特有の品質そのものを形づくる技術の一部です。

ボツリヌス菌と真空包装のリスク
ボツリヌス菌は、酸素の少ない環境でも増殖できる嫌気性菌です。ただし、真空包装しただけで直ちに危険になるわけではありません。温度、加熱、塩分、水分活性、衛生管理を重ね、亜硝酸塩もその多重管理のひとつとして機能します。
この菌は土壌などの自然環境に広く存在し、非常に強い毒素をつくることがあります。農林水産省の資料によれば、芽胞を完全に殺菌するには120℃で4分間、または100℃で360分間以上の加熱が必要とされ、通常の加熱調理では死滅しません。また、タンパク非分解菌と呼ばれる一群は3.3℃から増殖できるとされています。
真空パックだから危険なのでしょうか
「真空パックだから危険」という意味ではありませんし、「真空にすると必ず菌が増える」わけでもありません。増殖や毒素の産生には、保存温度、加熱条件、塩分濃度、水分活性、食品のpH、乾燥の程度、保存期間、製造環境の衛生状態、そして亜硝酸塩などによる増殖抑制と、複数の条件が関係します。
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家庭の低温調理でも、同じ条件がそろうことがあります
低温調理は、危険な調理法ではありません。ただし安全が決まるのは「何℃で加熱したか」ではなく、「肉の中心部が何℃になって、それが何分続いたか」の組み合わせです。厚生労働省は豚の食肉について、中心部の温度を63℃で30分間以上加熱するか、これと同等以上の殺菌効果がある方法を求めています。その例示が「75℃で1分間以上」です。基準そのものが、温度と時間の組み合わせで書かれています。
家庭用の低温調理器が正確に管理できるのは、湯の設定温度です。肉の中心部がその温度に達してからの経過時間は、厚みや初めの温度によって変わります。そして前述のとおり、ボツリヌス菌の芽胞は低温調理の温度帯では死滅しません。真空パック、低温、そして保存——この三つは、この記事の前半で挙げた条件とほぼ同じ並びです。
これは「低温調理をやめたほうがよい」という話ではありません。中心温度を測る、その温度で必要な時間を確認する、作ったらすぐ食べるか手早く冷ます。見るところが分かっていれば、どれも家庭でできる判断です。
ハムの本場では、亜硝酸塩はどう扱われているか
ドイツでは、亜硝酸塩は特別な添加物ではなく、製品の分類そのものに組み込まれています。ドイツ食品手引書の「食肉および食肉製品に関する指針(Leitsätze)」では、加熱して作る塩せき肉(Kochpökelwaren)は「発色処理済みであること」が定義の要件とされ、その発色処理は亜硝酸塩添加食塩などの使用を前提としています。
ただし、これがすべてのハム・ベーコンに当てはまるわけではありません。同じ指針でも、生の塩せき肉(Rohschinken)やベーコンにあたる Frühstücksspeck は、亜硝酸塩添加食塩を使うかどうかを問わないと明記されています。「無添加はハムと認められない」と一括りにはできません。
もうひとつ、誤解されやすい点があります。この Leitsätze は法律ではありません。ドイツ連邦農業・食料・郷土省(BMLEH)自身が「法規範ではなく、法的拘束力を持たない」「客観化された専門家の見解という性格を持つ」と説明しています。取引上の一般的な考え方を示したもので、違反が直ちに違法になるわけではありません。
家庭でも亜硝酸塩添加食塩が使われている
ドイツには自家製のハムやソーセージを作る文化があり、亜硝酸塩添加食塩(Nitritpökelsalz)は一般の消費者が手に入れられるものとして流通しています。ドイツの食品添加物施行令(LMZDV)は、この塩を含む食品を一般消費者へ販売する際の表示義務を定めており、一般消費者向けに流通することを制度が前提にしています。
日本の感覚では驚かれるかもしれません。けれども、ハムやソーセージを家庭で仕込む文化のある地域では、亜硝酸塩は「専門家だけが扱う特別な薬品」ではなく、台所にある道具のひとつとして扱われてきました。
日本で亜硝酸塩に馴染みが薄い理由
理由は規制ではなく、歴史の長さで説明できます。日本で肉が日常の食卓に並ぶようになってから、まだ150年ほどしか経っていません。塩せきという言葉にも、亜硝酸塩という物質にも、生活のなかで触れる機会がほとんどなかったのです。
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675年(天武天皇4年)の詔で、牛・馬・犬・猿・鶏の肉を食べることが禁じられました。すべての肉が禁じられたわけではありません。猪と鹿は対象外で、その後も狩猟され食べられています。江戸時代には「薬食い」という名目で獣肉が食べられ、彦根藩は牛肉の味噌漬けを養生薬として将軍家へ献上していました。長崎の出島では、オランダ人とともに牛肉を口にする機会もありました。
誤解されやすいのですが、明治政府が国民一般に向けて肉食を解禁したという布告は確認できません。明治5年(1872年)の太政官布告第133号は、僧侶の肉食・妻帯・蓄髪を許可したもので、国民向けのものではありません。実際に起きたのは、明治4年12月ごろに宮中で肉食の慣行が改まり、そこから牛鍋や洋食が社会へ広まっていったという緩やかな転換でした。
明治7年(1874年)には、イギリスから来日したウィリアム・カーティスが、鎌倉郡下柏尾村(現在の横浜市戸塚区)でハムの製造を始めたとされています。ヨーロッパが数世紀かけて積み上げてきた塩せきの技術を、日本はおよそ150年で受け取ったことになります。用語に馴染みがないのは、当然のことです。知らないことと、危ないことは違います。
無添加なら、亜硝酸根はゼロになるのか
ゼロにはなりません。亜硝酸塩を添加していない製品からも、亜硝酸根は検出されます。これは製品の欠陥ではなく、原材料や工程に由来するものです。
理由は工程にあります。精製した亜硝酸塩を加えない製法であっても、原料に含まれる硝酸塩が微生物の働きで亜硝酸塩へ変わることがあります。海外の「Uncured」と表示される製品では、むしろその仕組みを積極的に利用して塩せきしています。
「無塩せき」と「無添加」は同じではありません
「無塩せき」は、塩を使っていないという意味ではありません。日本では、景品表示法に基づいて認定された「ハム・ソーセージ類の表示に関する公正競争規約」で、発色剤等を使用しないで、低温で塩漬けを行うことと定義されています。食品表示基準そのものではなく、業界が運用している表示ルールです。
つまり無塩せきとは、発色剤を使わない製法を指す言葉です。食塩そのものは無塩せき製品にも使われています。そして「発色剤を使わない」ことと「添加物を使わない」ことも、同じではありません。
アメリカでも「無塩せき」の表示が議論になりました
海外の「Uncured」製品には、セロリパウダーや野菜ジュース粉末といった植物由来の原料を使う方法があります。これらに含まれる硝酸塩を微生物の働きで亜硝酸塩へ変えて塩せきに利用するため、精製した亜硝酸ナトリウムを加えていなくても、工程の中で亜硝酸塩が生成されます。
そのため米国では、通常の塩せきと同じように作用しているのに「無塩せき」と表示することについて、表示制度の見直しを求める申立てが消費者団体から提出されました。植物由来だからといって管理が不要になるわけではなく、原料中の硝酸塩量、使用する微生物、温度、時間、最終製品の残存量まで管理する必要があります。
したがって、「天然由来だから必ず安全」「植物由来だから管理できない」「食品添加物として加えるから危険」——このいずれの単純な結論も、正確ではありません。
欧州は使用量をどう決めているか
欧州は、亜硝酸塩を悪い物質として排除しているわけではありません。ボツリヌス菌などを抑える必要性を認めたうえで、安全性を維持できる範囲に使用量を管理するという考え方を採っています。
欧州食品安全機関(EFSA)は2017年の再評価で、当時設定されていた安全な水準について、消費者を十分に保護するものと評価しました。その一方で使用基準の見直しも進みました。EU規則2023/2108は、一般的な食肉製品に添加できる亜硝酸塩の上限を、亜硝酸イオン換算で80ppm(80mg/kg)と定めています。改正前は亜硝酸ナトリウム換算で150mg/kgでした。あわせて、製品に残ってよい量も亜硝酸イオン換算45ppmと定められています。適用は2025年10月9日から始まります。
この改正の前後で、数字の大小だけを見て「半減した」と読むことはできません。表記の基準が「亜硝酸ナトリウム換算」から「亜硝酸イオン換算」へ変わったため、旧い数値と新しい数値は、そもそも同じものを測っていないからです。規則が示した目的は、微生物学的な安全性を維持しながら、ニトロソアミンの生成を可能な限り低く抑えることでした。
なお、懸念されているのは亜硝酸塩そのものではなく、条件によって生成しうるニトロソアミンという物質です。各国が使用量の上限を定めているのは、この生成を低く抑えるための仕組みにほかなりません。規制は危険の証拠ではなく、管理の仕組みです。

野菜と食肉製品では、何を見ているのか
「野菜から摂取する硝酸塩のほうが多い」という話をよく聞きます。事実として、食品から摂取する硝酸塩の多くは野菜に由来します。ただし野菜に多いのは主に硝酸塩であり、その一部が口腔内や体内で亜硝酸塩へ変換される、という順序です。
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| 比較項目 | 野菜由来の硝酸塩 | 食肉製品に使う亜硝酸塩 |
|---|---|---|
| 主な評価対象 | 硝酸塩の摂取量と、野菜全体の栄養上の利益 | 使用量、微生物制御、製品中の反応や生成物 |
| 欧州の基本判断 | 一般的な摂取では、野菜を食べる利益が潜在的リスクを上回る | 安全性と品質への必要性を認め、使用量を管理する |
| 管理の方向性 | 野菜の種類、摂取量、年齢なども考慮する | 微生物学的安全性を保ちながら、必要な範囲に抑える |
※測っている対象が異なるため、数値の大小で規制の厳しさを比較することはできません。
OUR POSITION
添加物の設計には大きく3つの立ち位置があります。エーデルワイスファームは、そのうち「必要最小限の亜硝酸塩を使い、保存料・着色料・リン酸塩は使わない」位置にいます。
ひとつは、亜硝酸塩を使わずに加熱・温度・塩分・水分活性で保存性を組み立てる設計です。もうひとつは、植物由来の硝酸塩を利用して塩せきする設計で、原料の規格と工程管理を厚くすることで成り立ちます。どちらも、条件を管理すれば安全に作れます。当ファームが3つめの位置を選んでいるのは、約4週間という熟成期間を通して、香りと保存性を同時に安定させる手段が、いまのところ他に見つかっていないからです。
マイナス2℃の氷温帯で約4週間かけて、ゆっくり水分を抜きます。厚く切っても脂が重く感じられないのは、この4週間で抜けた分です。
ONLINE SHOP
ここまで書いてきた「必要最小限の使用」と「マイナス2℃で約4週間」を、いちばん厚い断面で確かめられるのが 薪・炭火仕上げ ベーコンブロック 280g です。切る厚みは、召し上がる方が決められます。
私たちも約40年、無塩せき製法を試してきました
エーデルワイスファームは、無塩せきのハムやベーコンを初めから否定していたわけではありません。約40年にわたって複数の方法を試しましたが、求める香り、味、品質、安定性を同時に満たす結論には至りませんでした。単純に亜硝酸塩を使わない方法だけでなく、セロリパウダーなど植物由来の原料を利用する方法にも取り組んでいます。
大きかったのは、香りと味わいの違いです
亜硝酸塩を使わずに試作した製品では、求める塩せき肉らしい香りが十分に得られませんでした。加熱した豚肉に近い香りが残ったり、獣肉特有の匂いが残ったりする場合もありました。もちろん、味や香りの感じ方には個人差があります。
ただ、当ファームが目指しているのは、豚肉を塩漬液に浸して加熱しただけの味ではありません。マイナス2℃の氷温帯で約4週間かけて引き出す肉の旨味と、二年間自然乾燥させたオーク(楢)材の薪と炭による直火・温燻の香り。燻煙室から出したばかりの塊を切ると、断面より先に、指に匂いが移ります。当ファームの試作条件では、亜硝酸塩を使わない製品はその味わいに届きませんでした。
品質を安定させるための管理も複雑になりました
植物由来原料を使う方法には、難しさがありました。原料や製造条件によって反応が変わる可能性があるため、製品中の状態を継続的に確認する必要があります。検査や管理の項目が増えれば、時間と費用も増えていきます。
保存性の確保も課題でした。当ファームの試作条件では、従来品と同じ保存性を安定して確保できませんでした。商品として提供するなら冷凍を含めた見直しが必要になり、それは保存方法や流通方法そのものを変える話になります。これは、すべての無塩せき製品に当てはまる話ではありません。あくまで、当ファームが長年行ってきた試作で得た結果です。
「70ppm」という数字は、何を定めたものか
この記事には ppm という単位の数字がいくつか出てきました。単位は同じでも、測っているものが違います。ここを取り違えると、国ごとの規制の厳しさを比べたような気になってしまいます。
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| 数値 | 何を定めた/測った数字か | 対象 |
|---|---|---|
| 日本 70ppm | 製品に残ってよい上限(成分規格) ※食肉製品・鯨肉ベーコンの場合 |
亜硝酸根 |
| EU 80ppm | 製品に加えてよい上限(規則2023/2108) ※一般的な食肉製品。残存の上限は別に45ppm |
亜硝酸イオン換算 |
※この記事では単位を ppm に統一しています(1ppm = 1mg/kg)。日本の成分規格は条文では「0.070g/kg」、EU規則は「80mg/kg」と表記されています。※加えた量は工程中の反応で減るため、「加えてよい量」と「残ってよい量」を数字の大小で比べることはできません。国ごとの規制の厳しさも、この表からは判断できません。
日本の基準は、このうちいちばん右側、つまり最終的に製品へ残る量を定めたものです。食肉製品および鯨肉ベーコンでは、1kgあたり70mg(=70ppm)を超えて残存しないこと、という成分規格になっています。条文では「0.070g/kg」と書かれ、割合にすると0.007%にあたります。工程でどれだけ加えたかではなく、食べる人の口に入る段階で何が残っているかを見ている数字です。
なお、この70ppmは食品の分類ごとに違います。魚肉ソーセージ・魚肉ハムは50ppm、いくら・すじこ・たらこは5ppmと、別の値が定められています。「亜硝酸塩の基準」とひとくちに言っても、対象によって数字が変わります。
参考|実際に、どれだけ残っているのか
「必要最小限」という言葉だけでは、どの程度なのかが伝わりません。参考として、第三者機関に依頼した測定結果を開示します。2026年3月、株式会社LSIメディエンスに当ファームの5品を持ち込み、亜硝酸根の残存量を測定してもらいました。比色法(食品衛生検査指針 食品添加物編)に準拠した試験で、検出限界は0.5ppmです。
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いちばん多いステーキハムで24.8ppm、法令上限の35%にあたります。ベーコン節®は4.8ppmで、上限の7%でした。これが、当ファームの言う「必要最小限」の実際の中身です。
ただし、この数字の読み方には注意していただきたい点があります。これは2026年3月時点の、特定のロットを測定した結果です。製造時期や個体によって変動しますし、亜硝酸根の残存量は流通期間中にも変化します。次に測れば同じ数字にはなりません。
そして数値が小さいことをもって「だから安全です」と申し上げるつもりはありません。安全性は、この記事の前半で書いたとおり、加熱・温度・塩分・水分活性・衛生管理を重ねて成り立つものです。亜硝酸塩の量は、そのうちの一つにすぎません。実際の配合は商品表示を優先してください。
OUR METHOD
約40年
亜硝酸塩を使わない製法を試してきた期間
70ppm
亜硝酸根の残存上限(法令)=0.007%
3種
保存料・着色料・リン酸塩は不使用
この上限は、好きなだけ使ってよいという意味ではありません。必要な働きを活かしながら安全に使うために、残る量に線を引いた仕組みです。エーデルワイスファームは、品質と安全性を考えたうえで、必要最小限の使用にとどめています。使用量は法令で定められた基準に従っています。実際の配合は商品表示を優先してください。工程全体の考え方は製法の解説ページでご覧いただけます。
なお、亜硝酸塩は食品表示上「発色剤」に分類されます。ここでいう「着色料」とは異なる添加物区分です。したがって「保存料・着色料不使用」と「添加物不使用」は同じ意味ではありません。この違いを曖昧にしないことも、食品をつくる者の責任だと考えています。
まとめ|無添加という言葉だけで安全性は決まらない
一つの原料の有無だけで、安全かどうかを結論づけることはできません。亜硝酸塩は岩塩の中にあった成分に由来し、色と風味と保存性を同時に担ってきました。そして無添加を選んでも、亜硝酸根がゼロになるわけではありません。
CHECK POINTS
亜硝酸塩を使わない食肉製品も、別の製造管理によって安全に作れます。だからこそ、エーデルワイスファームは無塩せき製品そのものを否定しません。当ファーム自身も約40年にわたって試したうえで、亜硝酸塩を必要最小限使用するという選択をしています。
「無添加」という一言だけでは見えない、作り手の技術と管理があります。原材料表示を見るときには、その先——どのような考え方で、どれほどの時間と手間をかけて作られているのか——にも目を向けていただければ幸いです。
CONCLUSION
「入っているか、いないか」ではなく、
「なぜ使われているのか」で考える。
無添加を選ぶ人にも、選ぶ理由があります。どちらが正しいかではありません。それぞれの製品がどう作られているかを知って選べることです。この記事が、その材料になれば幸いです。
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表示だけでは伝わらないものを確かめていただくなら、当ファームの主力である 薪・炭火仕上げ ベーコンブロック 280g です。この記事に書いた工程を、そのまま通した1本です。
この記事に出てきた用語
亜硝酸塩の話には、専門用語が多く出てきます。ここでまとめて確認できます。
添加物と表示に関する用語
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| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 亜硝酸塩 | 食品添加物。菌の増殖抑制、風味の形成、酸化の抑制、発色に関わります |
| 硝酸塩 | 岩塩や野菜に含まれる成分。微生物の働きで亜硝酸塩へ変わります |
| 発色剤 | 食品表示上の用途名。表示は「発色剤(亜硝酸ナトリウム)」となります |
| 亜硝酸根 | 製品中に残る亜硝酸イオンのこと。残存量の基準はこの形で示されます |
| 保存料 | 微生物の増殖を抑えて保存性を高める添加物。亜硝酸塩とは別の分類です |
| リン酸塩 | 保水性を高める目的で使われる添加物。当ファームでは使用していません |
| 無塩せき | 発色剤等を使用せず低温で塩漬けを行うこと。公正競争規約上の表示です |
| ニトロソアミン | 条件によって生成しうる物質。各国が使用量の上限を定める理由です |
| ppm | 100万分の1を表す単位。1ppm は1kgあたり1mg と同じ量です |
※実際の配合は商品表示を優先してください。
製造と保存に関する用語
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| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 塩せき | 肉を塩漬けにする工程。塩味を付けるだけの工程ではありません |
| 塩漬液 | 塩せきに使う液体。当ファームは肉をこの液へ浸します |
| 亜硝酸塩添加食塩 | 食塩に亜硝酸塩を加えたもの。ドイツ語では Nitritpökelsalz と呼ばれます |
| キュアードフレーバー | 塩せき肉に生まれる独特の香り。加熱しただけの肉とは異なります |
| 氷温帯 | 0℃から凍り始める温度までの範囲。凍結の手前の温度帯です |
| 温燻 | 30〜80℃で数時間かけて燻す方法。冷燻・熱燻と区別されます |
| 嫌気性菌 | 酸素の少ない環境でも増殖できる菌。ボツリヌス菌もこれにあたります |
| 芽胞 | 熱や乾燥に耐えるために菌が作る、殻のような状態。通常の加熱では死滅しません |
| 水分活性 | 食品中で微生物が使える水の割合。低いほど菌は増えにくくなります |
| 詔(みことのり) | 天皇が出す命令。この記事では675年の肉食禁止の詔を指します |
| 太政官布告 | 明治初期の政府が出した法令。「だじょうかんふこく」と読みます |
| 中心温度 | 食品のいちばん奥の温度。加熱の基準はこの温度と時間で定められます |
※温度帯は一般的な目安です。製品や製造者により幅があります。
無添加ハムと安全性に関するよくある質問
子どもに食べさせるなら、無添加・無塩せきのほうが安全ですか?
無添加・無塩せきという表示だけで、安全性の優劣を判断することはできません。亜硝酸塩を使用しない製品も、適切な加熱、温度、塩分、衛生管理などによって安全に作ることができます。一方、亜硝酸塩を使用する製品では法令に基づいて量を管理し、ボツリヌス菌の増殖抑制などに役立てています。食品全体の製造方法と、表示された保存方法を確認することが大切です。
無添加のハムなら、亜硝酸根はゼロですか?
ゼロにはなりません。「無塩せき」と表示された製品でも、セロリパウダーなど植物由来の原料に含まれる硝酸塩が、製造工程中に微生物の働きで亜硝酸塩へ変わります。精製した亜硝酸ナトリウムを加えていなくても、結果として製品に亜硝酸根は残ります。日本では食肉製品および鯨肉ベーコンについて、残存量を1kgあたり70mg(70ppm)以下と定めています。
亜硝酸塩は、肉を赤く見せるためだけに使うのですか?
いいえ。色を安定させるほか、ハムやベーコン特有の風味形成に関わります。また、脂質の酸化抑制やボツリヌス菌などの増殖抑制にも関わります。食品表示では「発色剤」と表示されますが、役割は発色だけではありません。
亜硝酸塩は体に悪いのでしょうか?
懸念されているのは亜硝酸塩そのものではなく、食品中や体内の条件によって生成しうるN-ニトロソ化合物です。そのため、使用量や残存量の管理が必要とされています。日本でも、安全性評価に基づいて使用対象と残存基準が定められています。欧州食品安全機関(EFSA)は2017年に再評価を行い、当時設定されていた安全な水準は消費者を十分に保護するものと評価しました。「一切リスクがない」「含まれているだけで危険」のどちらにも単純化できません。
「無塩せき」と「無添加」は同じ意味ですか?
同じではありません。無塩せきは「ハム・ソーセージ類の表示に関する公正競争規約」で、発色剤等を使用しないで低温で塩漬けを行うことと定義されています。発色剤を使わない製法を指す言葉であり、食塩は使われています。また、発色剤を使わないことと、添加物を一切使わないことも別の話です。
セロリパウダーを使えば、亜硝酸塩を使わずに作れますか?
セロリパウダーなどに含まれる硝酸塩を利用する製法があります。微生物の働きで亜硝酸塩へ変換し、塩せきに使います。この場合、精製した亜硝酸ナトリウムは加えていません。それでも、製造工程中に亜硝酸塩が生成されます。植物由来であっても管理は必要で、原料の規格、温度、時間、微生物、最終製品の残存量を確認します。
エーデルワイスファームの商品は完全無添加ですか?
いいえ。「完全無添加」「添加物ゼロ」とは表示していません。品質と安全性を考慮し、亜硝酸塩を必要最小限使用しています。一方、保存料、着色料、リン酸塩は使用していません。「保存料・着色料不使用」と「添加物不使用」は異なります。
参考資料・出典
日本の公的機関・業界団体
- 食品安全委員会「亜硝酸ナトリウム(発色剤)について」
- 食品安全委員会「食の安全ダイヤルに寄せられた質問等Q&A(化学物質系)」
- 消費者庁「食品衛生基準審査(添加物の指定・規格基準)」
- ハム・ソーセージ類の表示に関する公正競争規約及び施行規則(PDF)
- 厚生労働省 食安基発0602第3号(平成27年6月2日/豚の食肉の加熱基準)(PDF)
- 農林水産省「食品安全に関するリスクプロファイルシート(ボツリヌス菌)」(PDF)
- 農林水産省「にっぽん伝統食図鑑|くん製品」(冷くん法・温くん法の温度帯)
- 食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)添加物の使用基準(PDF)
- 厚生労働省「食品添加物」(※2024年4月1日に食品衛生基準行政が消費者庁へ移管)
欧州・米国の資料
- ドイツ連邦農業・食料・郷土省(BMLEH)「Deutsches Lebensmittelbuch」(Leitsätze の法的性格について)
- ドイツ食品添加物施行令(LMZDV)第4条・第5条
- EFSA「食品に添加される亜硝酸塩・硝酸塩の再評価」(2017年)
- EFSA「野菜中の硝酸塩のリスクと食生活の利益」
- EU規則2023/2108(亜硝酸塩・硝酸塩の使用基準の改正)
- ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)「食品中の硝酸塩・亜硝酸塩に関するFAQ」
- American Meat Science Association「Sodium Nitrite in Processed Meat and Poultry Meats」(2011年/PDF)
- 米国農務省(USDA)FSIS「非合成硝酸塩を用いた加工肉の表示改善に関する請願」(英語)
※本記事は2026年8月29日時点の公的資料および査読論文をもとにしています。あわせて、エーデルワイスファームの長年の試作・製造経験を反映しました。自社の試作結果は、すべての無塩せき製品に共通する結論ではありません。残存亜硝酸塩の数値は米国での調査結果であり、日本の製品にそのまま当てはまるものではありません。賞味期限、保存方法、原材料、アレルゲンについては、各商品の表示をご確認ください。
※本記事は、食品と製造プロセスに関する客観的な情報の提供を目的としています。個人の健康状態や持病、食事制限に対する医学的な推奨を行うものではありません。食事上の個別のご不安がある場合は、かかりつけの医師、薬剤師、管理栄養士などの専門家にご相談ください。
