ナチュールハムとは何かを示す、氷温熟成と薪炭直火の温燻で仕上げたハム
ナチュールハムとは、古典的な製法に立ち返るという考え方です。

ナチュールハムとは、ハムのつくり方をあらわす言葉です。エーデルワイスファームは、この言葉に次のような定義を提案しています。
保水を目的とした添加物や注入による塩せきを行わず、亜硝酸塩を可能な限り低減し、薪と炭の直火で燻す。
つまり、古くから続いてきた製法へ立ち返るという考え方です。

ただし、この記事の目的は、自社の製法を説明することではありません。
「無添加だから良い」「添加物があるから悪い」という単純な二元論から、いったん離れてみること。
そのうえで、読者が自分で判断できる材料をお渡しすることです。
そこで、誤解されがちな4つのポイントから順に整理します。

SUMMARY
1亜硝酸塩の役割は発色だけではない
2無添加ハムは近年生まれた新しい選択肢
3安全性は「使う・使わない」では決まらない
4当ファームは、この言葉に定義を提案している

ナチュールハムとは、どういう考え方か

ナチュールハムとは、ハムのつくり方をあらわす言葉です。エーデルワイスファームは、この言葉に次の定義を提案しています。業界共通の規格や法令上の定義ではありません。

まず、これは私たちが一つの提案として示している定義です。
そのため、他社の製品を評価したり、格付けしたりするための基準ではありません。
あくまで、古典的な製法を言葉で説明するための枠組みです。

私たちが提案している定義は、次の5項目です。

OUR DEFINITION 私たちが提案する定義の5項目 1 保水や増量を目的とした添加物を使わない 2 注入針による塩せき(インジェクション)を行わない 3 亜硝酸塩を可能な限り低減する 4 薪と炭による古典的な直火式の燻煙で仕上げる 5 肉本来の旨味と香りを引き出すことを優先する
当ファームが提案するナチュールハムの定義。※業界共通の規格ではありません

なぜ定義を提案するのか

きっかけは、お客様からいただいた一言でした。
「ハムやベーコンは、本来はどういう作り方が王道だったの?」
この問いに答える枠組みが、既存のカテゴリーの中に見当たらなかったのです。

IN A WORD

ひとことで言うと、「無添加かどうか」ではなく「どうつくるか」で説明するための枠組みです。

誤解1|亜硝酸塩は「色のためだけの添加物」ではない

亜硝酸塩は、後から足された添加物ではありません。ハムやベーコンという食品は、その働きを利用して成立してきました。

まず、ハムやベーコンは保存食として生まれました。
その保存を支えたのが、岩塩や硝石(しょうせき=硝酸塩)に含まれる成分です。
硝酸塩は、塩せき(=肉を塩漬けにする工程)の中で微生物の働きにより亜硝酸塩へ変わります。

当時の作り手は、その仕組みを知りませんでした。
それでも「この塩を使うと肉が腐りにくく、色もよくなる」という経験知が先にありました。
正体が亜硝酸塩だと科学的に分かったのは、19世紀末以降です。
したがって、亜硝酸塩の働きなしには、ハムやベーコンという食品そのものが成立しませんでした。

発色は、4つある役割のうちの1つ

食品表示では「発色剤(亜硝酸ナトリウム)」と記載されます。
この用途名だけを見ると、見た目のための添加物だと受け取られやすくなります。
ところが実際には、複数の役割があります。

FOUR ROLES 亜硝酸塩が担う4つの役割 1 菌の抑制 ボツリヌス菌の 増殖を抑える 2 酸化の抑制 脂質の酸化による 風味の劣化を抑える 3 風味の形成 ハム・ベーコン特有の 香りをつくる 4 発色 表示上の用途名は ここだけを指す
食品表示の「発色剤」という用途名は、4番目の役割だけを指しています。

また、亜硝酸塩は燻煙や熟成の工程と合わさって、塩せき肉らしい香りをつくります。
そのため、色を付けるための添加物という理解は、役割の一部しか捉えていません。

硝酸塩は、身の回りに広く存在する

硝酸塩は、野菜や土壌、地下水などに広く含まれています。
体内や食品中では、その一部が亜硝酸塩へ変わることが知られています。
ですから、食品から硝酸塩や亜硝酸塩をゼロにすることは現実的ではありません。

一方で、現代の製造では岩塩や硝石をそのまま使いません。
成分量が産地ごとに一定でないうえ、衛生上の課題もあるためです。
代わりに、純度の確認された亜硝酸塩を法令の基準に従って計量します。
つまり、伝統的な仕組みを、現代の管理方法で再現しているということです。

「使わないリスク」も含めて考える

「無添加」は、使うリスクばかりが語られがちです。
でも、本当に考えるべきなのは「使わないリスク」も含めた比較ではないでしょうか。
例えば亜硝酸塩は、健康への懸念だけでなく、食中毒菌の増殖を抑える役割もあります。
いずれにしてもリスクをゼロにすることはできません。

TRADE-OFF 語られやすいリスクと、語られにくいリスク 使うリスク 条件によって生成しうる ニトロソアミンへの懸念 使わないリスク 食中毒菌の増殖と、 脂質の酸化による劣化 どちらもゼロにはできない。だから「なぜ使われているのか」で考える
※判断の材料を並べた図です。どちらかを推奨するものではありません

なお、懸念されているのは亜硝酸塩そのものではありません。
条件によって生成しうるニトロソアミンという物質です。
各国が使用量の上限を定めているのは、その生成をできるだけ低く抑えるための管理の仕組みです。
詳しくは無添加ハムと亜硝酸塩の記事で解説しています。

使用量は法令で定められた基準に従っています。
実際の配合は商品表示を優先してください。

ワインの亜硫酸塩と、立ち位置は似ている

ワインのラベルに「酸化防止剤(亜硫酸塩)」と書かれているのを見たことがあるかもしれません。
亜硫酸塩は、ワインの酸化を防ぎ、雑菌の繁殖を抑えるために、古くから使われてきました。
亜硝酸塩と亜硫酸塩は別の物質ですが、立ち位置はよく似ています。
どちらも、その食品が成立するために伝統的に組み込まれてきた工程の一部です。

ワインを選ぶとき、私たちは亜硫酸塩の有無だけで良し悪しを決めてはいません。
目的があって伝統的に使われてきたものが、食品にはある。
この対比が伝えるのは、その一点だけです。

誤解2|無添加ハムは、新しい価値観として生まれた

「無添加ハム」は、ここ数十年で広まった新しい製法のカテゴリーです。添加物を使わず、健康志向を重視するという想いから生まれました。

一方で、ヨーロッパの伝統的なハムづくりでは、何世紀にもわたって硝石が使われてきました。
長期熟成と保存性、そして味わいを支える知恵として受け継がれてきたものです。
つまり、両者は同じ時間軸の上にありません。

← 表は横にスクロールできます →
観点無添加という考え方ナチュールハムという考え方
生まれた時期近年に広まった古典製法への回帰として定義
出発点添加物を使わないこと工程そのものを昔の形に戻すこと
亜硝酸塩使わない設計可能な限り低減して使う設計
管理の重点衛生・温度・期限の管理をより厳密に熟成温度と期間、燻煙の管理
位置づけ確立した表示・製法の考え方当ファームが提案している定義
※どちらが優れているかを示す表ではありません。設計思想の違いを整理したものです

つまり「無添加ハム」も「ナチュールハム」も、どちらが正しいということではありません。
それぞれが大切にしている価値観があり、消費者や職人が信念を持って選ぶものです。
私たちは、その選択の幅が広がることこそが、豊かな食文化の証だと考えています。

誤解3|無添加だから安全とは限らない

「無添加=安全」「添加物入り=危険」というイメージは、必ずしも正しくありません。安全性は、原材料の一項目ではなく、工程の全体で決まります。

ハムやソーセージは、生肉を長期間保存する食品です。
そのため、微生物の繁殖を防ぐための技術と衛生管理が欠かせません。
無添加製法では、添加物に頼らない分、より厳密な管理が求められます。

一方で、亜硝酸塩のような成分を正しく理解し、安全な範囲で使うことも、長い歴史の中で培われた知恵のひとつです。
つまり、安全性を決めるのは「使う・使わない」ではありません。
“どう使うか”と“誰がつくるか”です。
それを支えるのは、職人の知識・技術・誠実さなのです。

IN A WORD

原材料表示に書けるのは「何を使ったか」だけです。何度で、どれだけの時間をかけて熟成させたかは、そこには書かれていません。

ナチュールハムが目指すもの

ナチュールハムとは、昔ながらのハムづくりを、現代の衛生基準と職人技で進化させたものです。

肉と塩と香辛料と時間が旨味を引き出し、
必要最小限の亜硝酸塩を用いながら、
自然の熟成と、自然の恵みによる燻しの中で、じっくりと旨味を育てていく。

OUR METHOD

増やすのではなく、減らしながら仕上げる。

マイナス2℃
氷温熟成の温度帯
約4週間
塩漬液に浸す期間
10kg → 約6kg
原料肉から完成まで
注入なし
タンブリングも不使用

燻煙には、2年間自然乾燥させたオーク(楢)材の薪と炭を使います。
そして、職人が肉の状態を見ながら火力を調整し、直火の温燻で仕上げます。

※熟成期間や歩留まりはロットにより多少前後します

味の設計が異なる、ということ

亜硝酸塩を使う設計と、使わない設計では、目指す味の輪郭が変わります。
塩せき香が立つのか、肉そのものの香りを前に出すのか。
どちらが上ということではなく、味の設計が異なるのです。
ただし、味の感じ方には個人差があります。

当ファームの製法による仕上がりについては、国際味覚審査(International Taste Institute)で評価をいただいています。
受賞の詳細は受賞の記事にまとめています。

工程ではなく、受け継ぐもの

この定義が指す製法は、先人たちの知恵と経験の積み重ねによって培われてきたものです。
自然の力に寄り添い、時間とともに熟成させるこの技法は、単なる製造工程ではありません。
文化として継承すべき食の遺産だと私たちは考えています。

それは、自然と科学、伝統と現代技術の調和によって生まれる味わいです。
私たちが守りたいのは、「無添加」と「ナチュール」という二者択一ではありません。
“正しく理解し、誠実に選ぶ文化”です。
それこそが、私たちがこの定義に込めた「ナチュールハムの本質」です。

塩せきの方法や熟成温度の違いは、ベーコン製造の違いを比較した記事で詳しく整理しています。

ONLINE SHOP

約4週間という時間が、
肉の弾力と脂のまろやかさを育てます

薪・炭火仕上げベーコンを見る

エーデルワイスファーム公式ショップを見る

この記事に出てきた用語

ナチュールハムとは何かを理解するうえで、押さえておきたい言葉をまとめます。

← 表は横にスクロールできます →
用語意味
ナチュールハムハムのつくり方をあらわす言葉。当ファームは本記事の5項目を定義として提案しています。法令上の定義ではありません
塩せき肉を塩漬けにする工程。使う液体は塩漬液と呼びます
硝石硝酸塩を主成分とする鉱物。古くから塩せきに使われてきました
亜硝酸塩食品添加物。表示上の用途名は「発色剤」。菌の増殖抑制や風味形成にも関わります
ニトロソアミン条件によって生成しうる物質。各国の使用基準は、その生成を抑えるための管理の仕組みです
氷温帯0℃から凍り始める温度までの範囲。凍結の手前の温度帯です
温燻30〜80℃で数時間かけて燻す方法。冷燻・熱燻と区別されます
※実際の配合は商品表示を優先してください

ナチュールハムに関するよくある質問

ナチュールハムとは何か、無添加とどう違うのか。読者から寄せられやすい疑問を整理します。

ナチュールハムとは何ですか?

A

ハムのつくり方をあらわす言葉です。
エーデルワイスファームは、保水目的の添加物と注入式の塩せきを行わず、亜硝酸塩を可能な限り低減し、薪と炭の直火で燻すこと、と定義することを提案しています。
業界共通の規格や法令上の定義ではありません。

無添加ハムとナチュールハムは何が違いますか?

A

出発点が異なります。
無添加は「添加物を使わないこと」から設計します。
一方、ここで提案している定義は「工程を昔の形に戻すこと」から設計します。
どちらが正しいということではありません。

亜硝酸塩は何のために使われているのですか?

A

役割は4つあります。
ボツリヌス菌の増殖を抑えること、脂質の酸化による風味の劣化を抑えること、ハム特有の香りをつくること、そして発色です。
食品表示の用途名「発色剤」は、このうち最後の一つだけを指しています。

食品から亜硝酸塩をゼロにすることはできますか?

A

現実的ではありません。
硝酸塩は野菜や土壌、地下水などに広く含まれています。
その一部が、体内や食品中で亜硝酸塩へ変わることが知られています。

無添加のほうが安全ですか?

A

表示の一項目だけでは判断できません。
安全性は、原料の状態、衛生管理、塩分、加熱、水分活性、保存温度、期限といった工程の全体で決まります。
亜硝酸塩を使わない場合は、別の手段で保存性と安全性を管理する必要があります。

エーデルワイスファームのハムは無添加ですか?

A

完全無添加とは表現していません。
亜硝酸塩を必要最小限で使用し、保存料・着色料・リン酸塩は使用していません。
なお「保存料不使用」は、添加物を何も使っていないという意味ではありません。
使用量は法令で定められた基準に従っています。
実際の配合は商品表示を優先してください。

選ぶときに見る、3つの視点

表示の一行だけでは、判断の材料が足りません。
そこで、読者が売り場で確かめられる視点を3つに整理しました。

CHECK POINTS 売り場で確かめられる3つの視点 1 何を使っていないか 保存料・着色料・保水剤の 記載を原材料表示で見る 2 どうつくっているか 熟成の温度と期間、注入の 有無、燻煙の方法を見る 3 誰がつくっているか 作り手が理由を説明して いるかどうかを見る
※判断の観点を整理した図です。優劣を示すものではありません

まとめ|ナチュールハムとは、選ぶための言葉

“無添加”も“ナチュール”も、どちらも食への真剣な姿勢の表れです。大切なのは、それぞれの背景を理解し、自分にとって信頼できる味を選ぶことです。

CHECK POINTS
1「発色剤」は役割の一つを指す用途名
2無添加は近年生まれた新しい選択肢
3安全性は工程の全体で決まる
4「なぜ使われているのか」で考える
CONCLUSION

読者を安心させる言葉ではなく、選ぶための言葉でありたい。

エーデルワイスファームのハムづくりは、自然の力と時間、そして職人の技が織りなすものです。
「正統派の安心」と「自然な美味しさ」を、これからも追求していきます。

記事で紹介した商品

ONLINE SHOP

効率ではなく、時間を選んだ味を。
ご自宅の食卓でお確かめください

薪・炭火仕上げベーコンを購入する

エーデルワイスファーム公式サイトを見る

参考資料・出典