OUR ROOTS ─ 後編
熟成庫に投じた50kgを失っても、当ファームは足を止めませんでした。前編でお話ししたコロナ禍での挫折の先で、職人たちが最後にたどり着いたのは、誰も本命だと思っていなかった部位でした。
この記事は、「ベーコン節®」誕生物語の後編です。もも肉への到達から、味の設計をやり直したこと、2023年の正式リリース、そして機械ではまだ敵わなかった瓶詰めの現場までを書きます。
前編(停電の夜から、コロナ禍で幻となった50kgの原料まで)をまだお読みでない方は、先にこちらをどうぞ。

「もも肉」にたどり着くまで
前編でお話しした通り、手がかりはハムとベーコンの製法上の違い――燻製のあとに加熱するかどうか――でした。当ファームは、この「加熱しない」製法を土台にしたうえで、部位を固定せずヒレ、ロースの芯、もも肉と、あらゆる部位で試作を重ねました。いわば、足すのではなく引いていく製法です。
検証の末にたどり着いたのが、もも肉でした。高級とされる部位も含めて比較したなかで、赤身の密度が高いもも肉が、いちばん深く豊かな旨みを残したのです。職人の手で、脂は初期の段階で徹底的に外されます。とろけるような食感を狙うのではなく、凝縮された肉そのものの力強い旨みを引き出すためです。ヒレでもロースの芯でもなく、もも肉。捨てた50kgの先に見つけた答えは、いちばん地味な部位でした。
脂を落としたもも肉は、まず氷温帯で約1ヶ月熟成させたのち、2年間自然乾燥させたオーク材の薪と炭で1週間ほど焙乾し、その後さらに3ヶ月以上ドライエイジングさせます。瓶の蓋を開けた瞬間に鰹節に似た香りが立ち上がるのは、この脂を落とす工程を経ているからです。原料は、この一連の工程を経て最終的に約5分の1にまで凝縮されます。10kgの豚もも肉から、瓶に収まるのはごくわずかな量です。皮肉にも、最初に投じた50kgの原料は、この答えにたどり着く前にカビで失われてしまいました。

味の答えを、もう一度描き直す
もも肉という部位が決まったあとも、当ファームは一度、間違った方向に力を入れていたことに気づきます。目指していたのは、塩気と燻香を強く効かせた「味の濃いベーコン節」でした。しかし、料理のベースになるほどの濃さは、仕上げにひとふりする使い方には強すぎたのです。
そこで設計を描き直しました。「ベーコンを削ったもの」ではなく、「削り節のように使う、まったく別の食材」として。薄く削ること、上品で軽やかな燻香に調整すること、そして役割を料理の仕上げに限定すること。ベーコンが調理の初期段階で脂と風味を引き出す「料理のベース」だとすれば、ベーコン節®は、最後にひとふりして香りを添える「仕上げ専用」の食材です。置き換えではなく、使い分けです。
2023年、ようやくの発売
味と製法が固まった2022年の夏、当ファームはまずレストランへの先行提供を始めます。店の厨房で、他の料理人の手に渡ってどう使われるのかを確かめる期間でした。そして2023年1月、「ベーコン節®」としてブランドを正式に発表します。商標そのものは、試作を始めて間もない頃に周囲の勧めで取得済みでした。停電の夜から数えて、4年あまりが経っていました。
とても美味しいものができた一方で、頭を抱えていたのはコストパフォーマンスでした。原価を考えると、一体誰が買うのだろうと悩む日々が続きます。そんなとき、当時大阪うめだ阪急のカリスマバイヤーとして知られていた薬師寺氏から、後押しをいただきます。「ぜひ大阪で最初にリリースしましょう」「大阪で売れたら、全国で売れますよ」。
半信半疑のまま、2023年5月、大阪うめだ阪急でのファーストリリースに踏み切ります。結果は、いきなりの大行列でした。毎日50本限定で用意した商品は、あっという間に完売を重ねます。ここから、ベーコン節®の「第二の物語」が始まりました。
機械では、まだ敵わない
味が固まったあと、当ファームは量産に向けて自動充填機の導入を検討します。鰹節と同じように、機械でスムーズに瓶詰めできるはずでした。ところが、削りたてのベーコン節は機械の内部で詰まり、思うように流れません。
原因は、削った直後の脂でした。鰹と同じように脂の少ない部位を選び、脂を可能な限り取り除いても、魚よりは脂肪が多く残るため、上質な脂は摩擦や静電気でわずかに粘着性を持ちます。その脂が空気中の水分と反応し、削り同士がくっついてダマになる。瓶に詰まる前に、機械の中で固まってしまうのです。
当ファームは、封入をすべて職人の手に戻しました。一瓶ずつ削りの状態を確かめながら、固まりができないよう少しずつ瓶へ詰めていきます。静電気を防ぐために室内の湿度を管理し、専用の道具を使いながら、今日も職人の手で仕上げられています。効率よりも、瓶の中の状態を守ることを選びました。

ベーコン節®、これまでの歩み
ベーコン節®は、2018年の着想から2023年の正式発表までの5年間、そしてその先の2026年まで、歩みを止めていません。
TIMELINE
2026年に向けて用意されているのは、削り方そのものを変えた新しいラインです。削りの厚みが変われば、香りの立ち方も食感も変わります。詳細は決まり次第、あらためてお知らせします。
EPILOGUE
停電の夜に生まれたひとつの思いつきは、5年の試行錯誤と、機械には任せきれない手仕事を経て、今日も瓶に詰められています。
濃い味を目指していた時期もあれば、コロナ禍ですべてを失いかけた時期もありました。
それでも辿り着いたのは、削り節と同じ感覚で、料理の仕上げにそっとひとふりする、ささやかな一品です。
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参考資料・出典
本記事は、当ファームが過去に公開した以下の記事をもとに、時系列を整理し、書き直したものです。
